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番外編 それでも俺は姐さんとともに生きていく

「マサミ?マサミよね?」 一階の総合受付の前でひとりの女性に声を掛けられた。 ふわふわとした印象のある、小柄で細い体形をした女性だ。 すこし茶色かかった長い髪を一本に編み込んで肩に垂らし、花柄模様の派手めのワンピースを着ていた。 「あ、スミマセン。人違い、でした」 ペコリと頭を下げるとそそさとエスカレーターへと向かった。 はっきりした日本語だが、アクセントや、イントネーションがおかしかった。 それはフーさんもウーさんも気付いていて。 「ユゲ、ナオサン、デンワ」 厳しい表情を浮かべる二人に言われ、ポケットからスマホを取り出し、弓削さんとナオさんに急いで電話を掛けた。 『分かりました姐さん。兄貴に用心するように伝えておきます』 『おぃ、てめぇー、電話に勝手に出るな!』 『絶対安静なんですよ。大人しくしててください』 なにやら賑やかだ。 「ヤスさん、命だけは大切にして。危ないと思ったら弓削さんを連れてすぐ逃げて」 『分かりました』 弓削さんの方はすぐに連絡が付いたけど、ナオさんの方はなかなか繋がらなかった。 「大丈夫かな」 嫌な予感しかなくて。 エレベーターで7階へと戻ろうとした時だった。 「未知」 後ろからナオさんの声が聞こえてきて、振り返ると、点滴が下がったキャスター付きの点滴棒を握ったナオさんがいたから腰を抜かすくらい驚いた。 「忘れ物だよ」 差し出されたのはピンク色の安産祈願の御守りだった。 「いつ落としたんだろう。ナオさんが気付いてくれたから良かった。ありがとう」 そのとき、蒼白に顔を引攣(ひきつ)らせながら、白衣姿の男性がエスカレーターを一気に駆け下りてきた。

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