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番外編 それでも俺は姐さんとともに生きていく
「林代議士が入院したN総合病院でさっき発砲事件があっただろう?」
「あぁ」
「昇龍会が裏で糸を引いているらしいぞ」
「マジか」
茶髪の若者たちがスマホを片手で操作しながらそんな話しで盛り上がっていた。
根も葉もないデマなのに。
やりきれない虚しさにとらわれた。
彼もひと言言いたいはず。でもいま事を荒立てるのは火に油を注ぐようなものだもの。口を真一文字に結びムスッとしながらも若者たちの前を素通りした。
「あのね遥琉さん、たいしたことじゃないんだけど、僕のこと誰かと勘違いして声を掛けてきた女性がいたんだ。日本語のイントネーションが少しおかしかったんだ。原井さんっていう代議士の知り合いじゃないかって伊澤さんが話していた」
「そうか」
「あとね、どこのテレビ局だか分からないけどカメラを肩に担いだ男性を見て、殺人容疑で指名手配されている男に酷似しているって」
「伊澤の犯罪を未然に防ごうとする眼力はいまだ衰えていないからな」
「伊澤さん警察を辞めたこと後悔していないのかな?」
「根岸と一緒にいた方が楽しいみたいだ。鞠家や蜂谷も側にいるし、茨木さんももうじきここに引っ越してくるだろう?2度目の青春はこれからだって言ってるくらいだから後悔はしていないと思う」
外の駐車場に向かう途中、彼が何かに気付き急に立ち止まった。
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