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番外編 誓う
「姐さん、ひとつだけ我が儘言ってもいいですか?」
服を着替えるのが嫌で駄々を捏ねる太惺と心望を橘さんと手分けしてあやしていたらヤスさんに体を支えられた弓削さんが座敷に入ってきた。
「椅子をお願いします」
橘さんが廊下に控えていた若い衆に頼むとすぐに椅子を運んできてくれた。
「悪いな。体の節々が痛くて思うように動かない。手もほら、震えが止まらないんだ」
ヤスさんに肩を支えてもらいながら椅子にゆっくりと腰をおろすと、両手を哀しげにじっと見つめた。
「本音を言うと橘が羨ましかった。姐さんと子どもたちに毎日囲まれて。一度でいい。抱っこさせてもらいたい。駄目ならいい」
「駄目なわけないですよ」
橘さんがオムツ一丁で駄々を捏ねる太惺を抱き上げると弓削さんの手に抱かせてくれた。
「もう片方の手でお尻をしっかりと支えてください」
橘さんに手伝ってもらいながら、はじめこそ危なっかしくて見ていられなかったけど、教えてもらった通り、しっかりと胸に抱き寄せ、お尻をぽんぽんと軽く叩いてあやすうち、キャキャと声を立てて太惺が笑いはじめた。
「鷲崎さんも、七海さんもあなたが来るのを首を長くして待ってます。しっかり養生して必ず戻ってきてください」
「その頃にはたいくんやここちゃん、歩いているかな?」
「えぇ」
「もっとお喋りしているかな?」
「えぇ」
「俺のこと忘れてないかな?人見知りして泣かれないかな?」
ポツリと寂しそうに呟いた。
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