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番外編 誓う
シチューのいい香りがどこからか漂ってきた。するとほどなくして那和さんがシチューの入った深皿を手に部屋に入ってきた。
体調はいまいちだけど、子どもたちのためにも一日も早く良くならなきゃ。
「野菜を切ったのは僕。見た目悪くてごめんね。あ、でも味付けは橘だから安心して」
「ありがとう那和さん」
クリームとチーズの美味しそうな匂いが鼻を擽る。膝の上に掛けてもらったランチョンマットの上に置かれたそれは美味しそうなクリームシチューで見ているだけで頬が緩んだ。
じゃがいも、人参、ブロッコリーといった野菜も大きめに切られていた。
「那和さん、もしかして指、切ったの?」
「あ、これ?」
右手を掲げた。小指以外の指に絆創膏がすべて貼られてあった。
「マーの喜ぶ顔を見たくて野菜を切るのに夢中だったから、気付いたらあちこち怪我してた。あ、でもたいしたことないよ。マー、温かいうちに食べて」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
手を合わせ、スプーンを手に取った。
「ん」
そして一口食べたとたん、思わず声が漏れた。
自分でも声が弾んでいるのが分かる。
那和さんの想いが込められたそれは、温かくて、堪らなく美味しかった。
「那和さん、美味しい」
コクがあるのにしつこくなくて優しい味だ。
ふぅふぅ冷ましながら二口、三口とゆっくりと口に運んだ。
隣に腰を下ろしてきた那和さんが「良かった」と微笑み、胸を撫で下ろしていた。
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