1315 / 3299
番外編 想う
『弓削に誰も何も悪くない。そう声を掛けて励ましてほしい。ここに着くなり姐さんが熱を出したのは俺が我が儘を言ったせいだ。オヤジに申し訳ない。姐さんに会わせる顔がない。死んで詫びるって暴れて、そりゃあもう大変だったんだ』
「そんな……」
七海さんを疑うわけじゃないけど、にわかには信じられなくて声が上擦った。
「おそらくクスリの副作用だ。迷惑を掛けたらもう二度と未知の側にいれなくなる。だから、迷惑かけねぇように神経をすり減らし俺らに気を遣っていたんだろうよ」
言いようのない切なさに胸が締め付けられそうになった。
「ねぇ遥琉さん、僕だけじゃなく、一太と遥香にも協力してもらって弓削さんが元気になるように励ましてあげよう」
「いいかも知れないな」
『弓削が起きたらまた連絡する』
「頼むな七海」
彼が名前を呼ぶと、
『人の女房の名前を馴れ馴れしく呼ぶな』
苛立ちを露にした鷲崎さんの声が漏れ聞こえてきた。
「おい鷲崎、焼きもちばっか妬いてると七海にそのうち嫌われるぞ」
『大きなお世話だ』
いつものように仲良く口喧嘩をはじめた。
芫は必ず弓削の前に現れる。男の約束だ。絶対に弓削を守る。二言はない。そうキッパリ言いきった鷲崎さん。その姿は自信に満ち、侠気に溢れていた。
ともだちにシェアしよう!