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番外編 想う

『何で止めるんだ。俺を待っている人がいるんだぞってさっきまで大騒ぎだったんだ』 目を覚ました弓削さんから電話があったのはそれから間もなくのことだった。 「あのね弓削さん、僕が風邪をひいたのは弓削さんのせいじゃなんだ。弓削さんは悪くない。だから元気を出して」 『まさか姐さんや一太くんやハルちゃんに励まされる日が来るとは……すみません』 「弓削さん、余計なお世話かもしれないけど、何があっても生きて。辛いとき悲しい時は話しを聞くから、僕で良かったら何でも相談して」 思いの丈をぶつけた。 『姐さんも具合が悪いのに、俺のことまで心配してくれて。すみません』 さっきから謝ってばかりいる弓削さん。他人じゃないんだからいちいち謝る必要なんてないのに。 『姐さんを休ませてやれって鷲崎が騒いでいるから』 「待って。切らないで」 『すみません』ぼそりと呟くとぶちっと通話が途切れてしまった。 でもその直後ショートメールが届いて。 【俺を想ってくれる姐さんと子どもたちの優しさに感謝】そう綴られてあった。思うように動いてくれない指にイライラしながらも懸命に入力してくれたんだと思うと涙が出るくらい嬉しかった。 「○×□▼」廊下から亜優さんの声が聞こえてきた。何を言っているのか分からなかったけど、すっーと少しだけ戸が開いて、何かを畳の上に置くとあっという間にいなくなってしまった。 「恥ずかしがらずに直接手渡せばいいのに」 その直後様子を見に来てくれた橘さんがそれを拾い上げると、くすくすと小さく笑っていた。

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