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番外編 千ちゃんLOVE

「しょうがねぇだろう。こっちにも色々と事情ってもんがあるんだよ」 「どーせ不祥事続きでメンツがたたない。警察の威信に掛けても。でしょう?違う?」 耳の痛いところを容赦なく突っつかれ、甲崎さんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。 「千里を泣かせないでよ」 「分かってるって」 「千里の可愛い妹を泣かせないでよ」 「それも分かってるって」 甲崎さんが上着の内ポケットに手を置いた。 「愛しの千ちゃんの為ならこの命、喜んで捧げる覚悟だ」 彼が小声で、浅川が失踪して蜂谷がサツを辞めてからだ。甲崎はいつでも退職届を出せるように持ち歩くようになった。そうそっと教えてくれた。 「取り込み中か?」 そこに伊澤さんと根岸さんが仲良く肩を並べて姿を現した。ふたりの後ろには亜優さん。チカちゃんや甲崎さんたちの顔を一目見るなり怪訝そうな表情を浮かべ、大事そうに持っていた黒い鞄を抱え直すと、しっかりと抱き締めた。 「おぃ甲崎、乾。頼むからあんまりおっかねぇ顔すんな。うちの舎弟()はちょいとシャイなんだ」 「おやっさん」 沼尾さんが椅子から慌てて立ち上がり、その場で深々と頭を下げた。 「沼尾、久し振りだな。元気そうで良かった」 「おやっさんもお元気そうで何よりです。顔を見れて安心しました」 伊澤さんと親しげに談笑する沼尾さんをチラッと一瞥する根岸さん。ゴホッとわざとらしく咳払いをした。 あれ?これって、もしかして焼きもち? それは彼も気付いてて。困ったように苦笑いを浮かべていた。

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