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番外編 千ちゃんLOVE

「おやっさんにどうしても渡したいものがあるんです。ちょっと待っててください。すぐに持ってきます」 何をそんなに慌てているのか椅子に躓き転びそうになりながらも玄関に向かった。 「甲崎、何笑ってるんだ。何がそんなに面白いんだ?」 「いいえ別に」 甲崎さんがクスクスと苦笑いしながら首を横に振った。 5分もかからず、すぐに戻ってきた沼尾さん。大事そうに赤い樽を抱えていた。 「あれは角樽だ」 彼が教えてくれた。 「角樽?」 「あぁ。樽の左右から突き出した把手(とって)に、持ち手の柄を渡した酒容器のことだ。婚礼や結納など、祝い事でよく使われる。根岸も伊澤もいい年した大人なんだ。ふたりに任せて、ほっとけばいいのにな」 彼も甲崎さん同様、苦笑いを浮かべていた。 「おやっさん、この度は結婚おめでとうございます。これは、おやっさんの部下だったみんなからです。あと、これももらってください」 角樽をぽんと渡され呆気に取られる伊澤さん。何が起きたのか理解する間もなく今度は茶封筒を手渡され、根岸さんに助けを求めた。 「根岸、一体どういうことだ?」 「どうやらみんな、俺達を゛夫婦゛にしたいらしい」 「は?」 きょとんとし二度、三度角樽を見つめる伊澤さん。 「・・・・・」 ようやく意味を理解したのか酔っ払ったみたいに頬を真っ赤にしていた。

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