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いつかこの想いがあなたに届きますように

「お帰り。どうした?」 ランドセルを下ろすことなく、しばらく僕と彼の顔を見つめたのち、一太が怯えたように口を歪めて急に泣き出した。 「昇降口で俺たちが来るのを待っていたら、交通安全協会の緑の服を着た男が笑顔で一太に近付いて来たそうだ。顔を見たら知らない男だったから、一太は咄嗟に校舎内に逃げようとした。でもいきなり手首を掴まれそのまま連れていかれそうになった。異変を感じた教頭が男に声を掛けると慌てて逃げ出したらしい」 「柚原はソイツのツラ見たのか?」 「いや。逃げたあとだった。教頭や他の交通安全協会のボランティアに聞いたら、帽子を目深く被っていたからどんな顔だったかまでは覚えていないって」 「そうか。怖かっただろう。もう大丈夫だ」 彼が一太を抱き上げてくれて。 頭を撫でながら声を掛けると、 「パパ、あのね」 鼻を啜りながら、泣きじゃくりながら、 「かおはしらないひと。でもね、こえはね、にてた」 途切れ途切れながらも懸命に言葉を紡ごうとした。 「誰に似ていたんだ?思い出せるか?ゆっくりでいいぞ。ゆっくりで」 彼が瞳を覗き込んだ。 「うんとね、えっとね、あ、そうだ!がんさんだ。がんさんのこえにそっくりだったからね、いちた、おもわずとまっちゃったの。そしたらうでをつかまれた」 「そっか、怖かったな。ごめんな、パパ助けにいけなくて」 「だいじょうぶだよ。ゆずはらさんとフーさんがきてくれたから。こわくなかったよ」 手の甲で涙をごしごしと拭いながら、エヘヘとはにかんだ。

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