1347 / 3299

いつかこの思いが届きますように

『忘れてないぞ。忘れる訳ないだろう』 鷲崎さんが顔を見るなり急に慌てはじめた。よほど橘さんが怖いみたいだった。 『遥琉、橘、いずれハルちゃんか、ここちゃんを縣一家の跡目にしたい。駄目か?』 「は?」 遼成さんのまさかの一言に場が一瞬静まり返った。 ペタペタと太惺がパソコンの画面を手で触りだした。ついさっきまで指をしゃぶっていたから、気付いたときはベタベタに濡れて大変なことになっていた。 「もしかしてバナナを食べていたのか?あ~もぅ、誰か拭くものを持ってきてくれ」 彼が椅子から立ち上がると、代わりに一太と遥香が競うように椅子によじ登り仲良くちょこんと座った。 すると、裕貴さんの身体を押し退け、強引に割り込んできた人がいた。孫を目に入れても痛くないくらい可愛がってくれるお義父さんだ。その腕の中には優真くん。 「じぃじ!」 「ゆうくん!」 2人はもう大興奮だった。 「二人とも立っちは危ないですよ。お座りしてお話ししましょうね」 椅子から落ちないように橘さんが手を添え身体を支えてくれた。 『跡目は誰だっていいんだよ。今どきヤクザは流行らねぇ。柵に縛られず、好きなように自由に生きればいいんだ』 お義父さんの言葉を彼や橘さんは何度も頷いて聞いていた。 『そういえば遥琉、根岸がどうしたって?お祝いって?』 お義父さんはまだ根岸さんと伊澤さんのことを知らなかったみたいだった。彼がまぁそういうことだ。短く伝えると、裕貴さんみたく暫くの間固まっていた。

ともだちにシェアしよう!