1360 / 3282
番外編 いつかこの思いが届きますように
「知らないところにいきなり連れてこられて緊張するなというのがまず無理だ」
びくびくしながらも出迎えてくれた若い衆のみんなにペコリと頭を下げ、靴を脱ぎ家の中に入ろうとすると、
「奏音、脱ぎっぱなしにしないんだ。真ん中に置いたら邪魔になる。端っこに、ちゃんと踵を揃えて置くんだ」
今度は頭ごなしに注意するのではなく分かりやすく教えた。すると、
「ねぎしさん、ごめんなさい」
奏音くんがすぐに靴を並び直した。
「良く出来たな。偉いぞ」
うんと褒めて伸ばす。
亜優さんと同じように接する根岸さんと伊澤さん。
今すぐには無理でも、゛ねぎしさん゛がいつか゛おじいちゃん゛って呼び方に変わる日がきっと来るはず。
「奏音くん、夕御飯の前にお風呂に入るお約束でしたよね?」
「あ、は、はい」
割烹着姿に着替えた橘さんを目を丸くして見上げる奏音くん。
「お風呂が苦手、耳に水が掛かるのが嫌なのは分かりますが、もう3日も入っていないんでしょう?柚原さんは寝かし付け、ぽちゃぽちゃのプロですから安心して入ってきてください」
「いちたといっしょにはいろう」
一太が奏音くんの手を握ると、それまで不安そうだった表情がみるみるうちに明るくなった。「うん」笑顔で頷いた。
ともだちにシェアしよう!