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番外編 いつかこの思いが届きますように

奏音くんは目の前に広がる非日常的な光景に箸を握り締めたまま、唖然としていた。 「おかおはちょっとだけこわいけど、みんなおもしろくて、やさしいんだよ」 「そうなの?」 奏音くんの顔が引きつっていた。 「飯が冷めたら旨くないぞ」 柚原さんが一太と奏音くんの間に腰を下ろした。 「成長期なんだ、遠慮するな。どんどん食べろ。ご飯も豚汁も一太と奏音がうんと食べるようにままたんがたくさん作ってくれたんだぞ」 仲良く「いただきます!」と声を合わせて言うと早速ご飯を一口頬張った。 右手で箸をグーに握るように持ち、左手で茶碗を持ち上げ勢いよく口にご飯を掻き込む奏音くんを見た柚原さんが、 「ちょっと待ってろ。ストップだ」 慌てて奏音くんを止めた。 「箸の持ち方を教わらなかったのか?」 奏音くんが柚原さんをじぃーーと見つめたのち、こくんと小さく頷いた。 「別に怒ってる訳じゃないからな」 柚原さんが口の回りに付いたご飯粒を取ってあげると、橘さんが濡れたタオルを持ってきてくれて、口の回りを綺麗に拭いてくれた。 「なぁに練習すれば上手く持てるようになる」 「はじめから出来る人はいませんよ」 二人で付きっきりで、手取り足取り、根気強く箸の持ち方を奏音くんに一から教えはじめた。

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