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番外編 いつかこの思いが届きますように
「根岸さんが引き取るというのならそれでいいと思いますよ。奏音くんの気持ちを尊重してあげましょう」
太惺と心望が我先にと橘さんの膝の上によじ登っていった。
「そういえば靴が二重底になっていたと、柚原さんに聞いたのですが」
「あぁ。買ったばかりの新品なのに、中敷きを剥がした痕跡があって、不審に思った根岸が中敷きを剥がすととんでもないものが隠されてあった」
「そうですか」
橘さんはこうなることをある程度予想していたのか然程驚く素振りを見せなかった。
彼にもう一度、奏音くんのランドセルの中を確認することと、根岸さんの息子さんと奏音くんが住んでいた寮をもう一度確認する必要があると伝えた。
『オヤジ、楮山組に先を越された。一歩遅かった。部屋の中はおそらく滅茶苦茶に荒らされ足の踏み場もないだろう。証拠隠滅するのに火まで付けやがった』
根岸さんと伊澤さんが寮に駆け付けたときにはすでに火は消し止められていた。ボヤ程度で済んだのは不幸中の幸いだった。
規制線が張られなに一つ持ち出すことは出来なかったけれど、勤務先のロッカーにあった私物は女将の好意でなんとか持ち出すことが出来たみたいだった。
『オヤジ、倅は惣一郎に助けを求めるために会いに行ったんじゃないか、そうとしか考えられない。惣一郎に福島に移住してくる前はどこにいたか聞いてみます』
「悪いが頼む」
彼が電話を切ると、すぐまた着信が鳴った。
『なんか大変なことになっているみたいだが、大丈夫か?』
あ、この声……
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