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ハルちゃんと奏音くん

「奏音、空ばっか見ていたら首が痛くなるぞ。一太の迎えに行こう」 「……」 奏音くんは縁側に座り足をぶらぶらさせながら雲ひとつない空をじーと見つめていた。 「ぱぱたん、ままたん付きだ。どうだ、行く気になったか」 彼に声を掛けられても微動だにしなかった奏音くんの肩がぴくっと微かに動いた。 「嘘じゃねぇぞ。帰りアイスでも食ってこよう。クレープの方がいいか?それともファーストフードにするか?」 もしかしたらパパが迎えに来るかもしれない。辺りが薄暗くなると決まって外に出て健気にも父親の帰りを待つ奏音くん。 でも待てど暮らせど帰ってはこなくて。 それ以降塞ぎ込むようになった。 かなくんばっかずるい! おふろもいっしょ、ねるときもいっしょ、おるすばんもいっしょ。 ままたんとぱぱたんはハルちゃんとたいくんとここちゃんのなのに。 奏音くんに焼きもちばかり妬いて、いつもご機嫌斜めでぷんぷんしている遥香。 でも部屋の隅で体育座りをし、声を押し殺し一人で泣いている奏音くんの姿を何度も目にするうち、かなくんにはままたんとぱぱたんがひつようなんでしょう?なら、ハルちゃんがまんする。だってハルちゃんたいくんとここちゃんとひまちゃんのおねえちゃんだもの。そう言って紗智さんや那和さんのところにいくようになった。 「かなくんいってきなよ」 紗智さんと手を繋ぎ遥香が幼稚園から元気いっぱい帰ってきた。 「ハルちゃんはなに食べたい?」 「へんなの。かなくんはなにたべたいの?」 「なに食べていいか分かんない。外で食べるのあんまりなかった」 返ってきた答えに遥香は動じることなく、 「なら、ぜんぶたべてみたら?」 「あ、そうか。ハルちゃんあたまいいね」 奏音くんの表情もみるみるうちに明るくなった。 「夕御飯を残したらままたんの雷があとでパパに落ちるから、ほどほどにな。じゃあいくか?」 「うん」 ようやく奏音くんが動いてくれた。

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