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番外編 ハルちゃんと奏音くん

「臨月の妻が大変なときに夫が側にいない。それでも男かって電話越しに橘に怒鳴られて。それから30分近くみっちりと説教されたんだよ。卯月がなんで橘に頭が上がらないのか、やっと分かったよ」 黒だった髪がいつの間にか綺麗な亜麻色になっていたからちょっとびっくりした。 「髪、変か?」 「ううん」 首を横に振った。 「当局の監視の目がさらに厳しくなった。事実無根のスパイ容疑で何人もの仲間が逮捕されている。そんな顔をしないでくれ。俺は逆境に強い。お、くれるのか?ありがとう」 一太と遥香から人参とコーンの蒸しパンを渡され、嬉しそうに破顔するとあっという間に平らげてしまった。 「リーや黒竜(ヘイノン)に搾取され助け出された子どもたちが身を寄せる孤児院の窮状を伝え支援金を募るために中国人医師として来日したんだ。海の向こう側で病気と闘っているお友だちに千羽鶴を贈ろうと思っているんだ。一太、ハルちゃん協力してくれるか?」 「うん、わかった!」 「はぁ~~い!」 小さな手がもうひとつ。びくびくしながらそぉーと上がった。 「きみが噂の根岸の孫か?」 「ねぎしかなたくんだよ。ちょっとはずかしがりやさんなんだ」 「そっか。地竜(ディノン)だ。未知の愛人(アイレン)だ。奏音くん宜しくな」 怖がらせないように微笑んで手を差し出したけど、奏音くんはさっと手を引っ込めると柚原さんの背中に隠れてしまった。

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