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番外編 へんなおじちゃんの正体は……
「なんで気付かないかな?」
彼が頬杖をついて庭を眺めていた。
物陰に隠れて紗智さんの一挙一動を食い入るようにチラチラと見ていたのは鞠家さんだった。
紗智さんは子どもたちと遊ぶのに夢中で全く気付いていない。
「へんなおじちゃん、さっちゃんのことをずっと見てるよ」
奏音くんが紗智さんの裾をツンツンと引っ張った。
「へんなおじちゃん?」
紗智さんが首を傾げながら奏音くんが指差した方を見た。
「……嘘……」
両手で口元を覆うと顔を真っ赤に赤らめた。
「地竜を追い掛けて仙台に真っ直ぐ向かう予定だったんだけど、きみに酷いことを言ってしまったから、ちゃんと会って謝りたくて。それで寄ったんだ。本当にごめん。反省している。この通り許してくれ」
鞠家さんが深々と頭を下げた。
「ほんの些細なことで痴話喧嘩がはじまったんです。元同僚たちからの誘いをどうしても断れなくて居酒屋に行ったみたいなんですが、その元同僚には女性も含まれてまして、紗智さんが焼きもちを妬いて、それでちょっと喧嘩になったんです」
橘さんがこっそりと教えてくれた。
「もういいよ。高行さん優しくて面倒みがいいから、だからみんなから好かれる。俺が我慢すればいいだけだもの」
「なんでそうなるかな。俺は紗智以外の女にも男にも興味はない。俺が好きなのは紗智だけだ。俺が抱きたいーー」
「お前らストップ!」
彼が大きな声を張り上げた。
その声にはっとし、何気に下を見ると子どもたちが目をキラキラと輝かせ、興味津々にふたりを見上げていた。
鞠家さんに初めて会う奏音くん。警戒心マックスで那和さんの背中に隠れてじーーと瞬きもせず観察していた。
「君が根岸さんの孫か。へんなおじちゃんに見えるけどへんなおじちゃんじゃないぞ。俺は紗智の夫の鞠家だ。宜しくな」
鞠家さんが前に屈みにっこりと微笑んで右手を差し出したけど、奏音くんはぷいとそっぽを向いて那和さんの背中に隠れてしまった。
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