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番外編 かなたのじいちゃん

「かなた、じいちゃんにてがみかいたんだよ」 「そうか、ありがとう」 手紙を差し出され受け取ろうとしたら、 「動くな」 伊澤さんがむっとしてネクタイを引っ張った。 「まだ結び直していないんだ。少し待て」 奏音くんは手紙を両手で大事そうに抱え、騒がずお利口さんにして待っていた。 「亜優さんには焼きもちを妬かないのに、奏音くんには焼きもちを妬くんですね。お待たせしました」 クスクスと笑いながら橘さんが紙袋をぶら下げて姿を現した。 「お握りとサンドイッチです。何があるか分かりませんからね。食べれるときにしっかり食べて下さいね」 「ありがとう橘。忙しいのに朝飯を頼んですまなかった」 「いいえ。このくらいどうってことありませんよ。根岸さん、息子さんを見付け出して下さいね。そしてここに必ず連れてきてください。その甘ったれな根性を一から叩き直してあげますから」 「相変わらずおっかねぇな」 「何か言いました?」 「いや、何も言ってない。あ、そうだ奏音。その手紙じいちゃんにくれるんだろう?」 橘さんの目は笑ってはいなかった。 完全に座っていた。 「頼むからそんなに怒らないでくれ」 「別に怒ってませんよ」 ちらちらと橘さんの顔色を伺いながら奏音くんから手紙を受け取ると大事そうに上着の胸ポケットにしまった。

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