1428 / 3258

番外編 モテ男の受難

「お父さん口ではこう言ってるけど、あなたのことを心配していたのよ」 和江さんが蜂谷さんに笑顔で話し掛けた。 「ご飯、ちゃんと食べてる?」 「あぁ食べているよ。橘や紫さんが美味しいご飯を作ってくれるから。もちろんお袋の飯も旨いよ」 「どう?慣れた?」 「オヤジも姐さんも鞠家も柚原たちも、舎弟たちも、元デカの俺に優しくしてくれる。子どもたちもはちさん、はっちゃんって呼んでくれて。一人でいると一太くんが大丈夫?寂しくない?って声を掛けてくれるんだ。遊び相手になってくれる」 「普通は逆なんだけど……そう。良かったわ」 和江さんがほっとし、胸を撫で下ろした。 「カシラのところに戻ります。親父、お袋、ゆっくりしていくといい」 「ありがとう優一。お父さんね、度会さんと茨木さんとさしで呑むのを楽しみにしていたのよ。だから一晩泊まらせてもらうことにしたの」 「それなら良かった。オヤジ、橘、二人を頼みます」 正座していた蜂谷さんが背筋をぴんと伸ばすと頭を深々と下げ、組事務所に戻っていった。 「今の方が生き生きしてる。まるで水を得た魚のようだ」 惣一郎さんが嬉しそうに目を細め呟いた。 「卯月さんのお陰ね」 「私は何もしていません。い、ててて。少しは手加減……」 「大人しく寝ていないあなたが悪い」 「言い付けをちゃんと守って寝ているだろう」 いつものように仲良く口喧嘩をはじめたふたり。 「卯月さん、橘さんはどうやら虫の居所が悪いようだ」 惣一郎さんが苦笑いを浮かべた。

ともだちにシェアしよう!