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番外編 モテ男の受難
「お父さん口ではこう言ってるけど、あなたのことを心配していたのよ」
和江さんが蜂谷さんに笑顔で話し掛けた。
「ご飯、ちゃんと食べてる?」
「あぁ食べているよ。橘や紫さんが美味しいご飯を作ってくれるから。もちろんお袋の飯も旨いよ」
「どう?慣れた?」
「オヤジも姐さんも鞠家も柚原たちも、舎弟たちも、元デカの俺に優しくしてくれる。子どもたちもはちさん、はっちゃんって呼んでくれて。一人でいると一太くんが大丈夫?寂しくない?って声を掛けてくれるんだ。遊び相手になってくれる」
「普通は逆なんだけど……そう。良かったわ」
和江さんがほっとし、胸を撫で下ろした。
「カシラのところに戻ります。親父、お袋、ゆっくりしていくといい」
「ありがとう優一。お父さんね、度会さんと茨木さんとさしで呑むのを楽しみにしていたのよ。だから一晩泊まらせてもらうことにしたの」
「それなら良かった。オヤジ、橘、二人を頼みます」
正座していた蜂谷さんが背筋をぴんと伸ばすと頭を深々と下げ、組事務所に戻っていった。
「今の方が生き生きしてる。まるで水を得た魚のようだ」
惣一郎さんが嬉しそうに目を細め呟いた。
「卯月さんのお陰ね」
「私は何もしていません。い、ててて。少しは手加減……」
「大人しく寝ていないあなたが悪い」
「言い付けをちゃんと守って寝ているだろう」
いつものように仲良く口喧嘩をはじめたふたり。
「卯月さん、橘さんはどうやら虫の居所が悪いようだ」
惣一郎さんが苦笑いを浮かべた。
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