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番外編 伝説のヤクザ、奏音くんと初対面
「自分は本部長に向いていない。専業主夫になって子育てしながらオヤジや橘さんを支えるのが自分には向いているって、本部長、橘さんに言っちゃったんですよ」
ヤスさんに言われて、橘さんの虫の居所が悪い原因がようやく分かった。
「怒られてはいないけど、めちゃくちゃ睨まれてました。橘さんただでさえ怖いのに。火に油を注いだようなものです」
「大変な状況だもの。みんなで一致団結しなきゃ乗り越えられないもの。柚原さんもそれを分かっていると思うんだけど」
「だといいんですが……」
ヤスさんが何かに気付き、逃げるようにあっという間にいなくなってしまった。
「そんなに私怖いですかね?」
入れ違いに姿を見せたのは橘さんだった。
「遥琉が誰も構ってくれない。ひとりは嫌だって。駄々を捏ねてます。図体だけは大きいのに中身はお子ちゃまで、本当に困ったものです」
「橘さんは全然怖くないです。それじゃあ、あの、僕行きます」
「未知さんを構い過ぎてまた腰を痛めたら、元の木阿弥です。一太くん、ハルちゃん、パパにこれを持っていって、お口あ~んで食べさせてきてください」
「え?なに?なに?」
懐かしい甘い匂いに、ふたりはすぐにそれがおっきいじぃじ特製のアップルパイだと気付いた。
「いちたとハルちゃんのぶんある」
「頼んでもいいですか?」
「はぁ~い」
ふたりは右手を挙げ、とても大きい声で返事すると、橘さんからお皿を受け取り、落とさないようにゆっくりとパパに持っていった。
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