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番外編 伝説のヤクザ、奏音くんと初対面

「大人にはやむにやまれぬ理由というものがあるんですよ。奏音くんを守るために、お父さんは嘘をついたのかも知れません」 奏音くんは瞬きもせずじぃーと橘さんを見つめた。 「ままたんうそつかない。だからかなた、ままたんしんじる」 手を合わせ、いただきますと大きい声で言うとまずはアップルパイを一口。恐る恐る口に運んだ。 「おいしい」 頬っぺたに両手をあてると、にこにこの笑顔になった。 「一太くんのおっきいじぃじ、かなたねアップルパイがにがてだったんだけど食べれたよ。これおいしいね」 「嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか。そうか、美味しいか。作ってきた甲斐がある」 お祖父ちゃんの方がもしかしたらほっとしていたのかも知れない。 これでふたりの距離が少しでも縮まればいいんだけどなぁ…… 「橘、お腹すいた。俺にもちょうだい」 甘い匂いに誘われてもうひとり姿を現した。 まずは部下の無礼を謝るのが先なのに、妙に馴れ馴れしいその態度に橘さんの頭ににょきにょきと角が一本生えてきた。タイミング悪すぎだよ。 シワンさんのこと、耳に入ってないのかな? 「橘、もしかして怒ってる?なんで?まだなにもしていないぞ」 「ディ~ノン~さん」 橘さんが目をつりあげ、声を荒げた。 奏音くんがいるから雷は落ちないと思ったけど、 「まずはごめんなさいが先でしょう。小学生でも分かることです。あなたは部下にどういう躾をしているんですか!」 止めようとした柚原さんの制止を振り切り、橘さんの怒りが爆発した。

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