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番外編 命の重み
「ふっーとゆっくり、なるべく長く息を吐いて。鼻からお腹に吸うように息を吸い込むの。そう上手よ」
和江さんと紫さんがつきっきりで側にいてくれるから心強い。
庭ではお祖父ちゃんや惣一郎さんたちが手分けして流し素麺の台を組み立てていた。彼と度会さんは現場監督だ。
ビニールプールの準備は紗智さんと那和さんと鞠家さんと亜優さん。
子どもたちも率先してお手伝いをしてくれてる。
太惺と心望は、ままたんとぱぱたんにそれぞれ抱っこしてもらい、服をぎゅっと握り締め目をまん丸くして、興味津々身を乗り出すようにお兄ちゃんたちを見ていた。
子どもたちのキャキャとはしゃぐ声と賑やかな笑い声に、警備にあたる若い衆も自然に笑顔になった。
「みんな水着に着替えてきてもいいぞ。紗智、那和、悪いが着替えを手伝ってやってくれ。奏音、お前の水着もちゃんと用意してある。一緒に着替えてこい」
「ほんとに?」
「嘘ついてどうするんだ。じぃじににあとで礼を言っておけ」
「うん。わかった」
一太が奏音くんに「行こう」と声を掛けて、二人仲良く手を繋ぎ玄関へと向かった。
根岸さんから電話があったのはその直後だった。悠仁さんの交際相手と名乗る女性と、内縁の妻と名乗る女性が警察署内で揉めて大変な騒ぎになっているということだった。
「橘、悪いが根岸のところに……心望頼むからパパを睨まないでくれ。ままたん、お仕事なんだ」
心望がほっぺを膨らませて彼をじぃーと見つめた。
無理もない。さっきまで素麺を茹でたりと大忙しで。やっと抱っこしてもらえたんだもの。大好きなままたんから離れたくないもの。
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