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番外編 悲しみの連鎖
ただいま!
お日さまみたいく明るく元気な声が聞こえてきた。
「お、一太と奏音が帰ってきたみたいだ。地竜のヤツ、弱音を吐くことなくパパ代行を頑張っていたぞ。あとで褒めてやれ。きっと喜ぶ」
「はい」
右足を庇うようにゆっくりと歩きはじめた根岸さん。
「もしかして足も?」
「太股を少しな。なぁに、かすった程度だ。こんなのすぐに良くなる」
「年を考えろ。もう若くないんだ。無理をするなって何度言ったら分かるんだ」
「怪我をしても恋女房が甲斐甲斐しく面倒をみてくれるんだ。これほど嬉しいことはない」
「恋女房か、照れるじゃないか」
「今さら何を言ってる」
身体をピタリと寄せ合い、見つめ合うふたり。見ている方が恥ずかしくなるくらいらぶらぶだ。
「ネギサン、イザサン」
ちょうどそこへ亜優さんが様子を見にきた。彼にとって見慣れた光景なのか然程気に止めず、ふたりを邪魔しないようにスッと静かにいなくなった。
悠仁さんは逃げるためにネットで自分の戸籍を売り、佐藤浩介という新しい戸籍を手に入れた。顔を似せるために整形までしていた。
だから根岸悠仁ではなく、佐藤浩介として殺人未遂の現行犯で逮捕された。
その日のうちに根岸さんと伊澤さんは、お祖父ちゃんと一緒に岳温泉に向かった。
彼の計らいで、惣一郎さんのところで、傷が癒えるまで静養することになった。というのはあくまで表向きの理由で、騒動が落ち着くまでしばらくの間、身を隠すことになった。
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