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番外編 悠仁さんが犯した罪の重さ
「脅していないってどの口で言ってるんだか。悠仁は恐怖のあまり、怯えた魚のように眼と口をぱちぱちしていた」
「遥琉さん?」
首を捻り彼を見上げた。
「ヤツは奏音を楮山組に売り飛ばし、ネコババした売上金の弁済を免れようとしていた。奏音にこれからはじぃじに世話になれってアパートに置き去りにしておいて、奏音が金のなる木だって分かるなり連れ戻そうとした。自分勝手なヤツだ。呆れてものが言えん」
「そんな……」
にわかには信じられなかった。でも、今の今まで彼や橘さんが嘘をついたことは一度もない。哀しいけどそれが紛れもない事実だってことだ。
「悠仁さんはなんで橘さんを知ってたの?」
ずっと気になっていたことを思いきって聞いてみた。
「ヤクザお抱えの弁護士なんてそうそういませんからね。どこでどう用立てたのか、100万円の小切手を提示してきました。これは着手金だ。あの男から息子を取り戻してほしい。成功報酬はこの5倍払う。そう言われましてね、聞きたくもありませんでしたが、黙って彼の言い分を聞いてあげました。さすが話術が巧みですね。被害に遭ったお年寄りがすんなり騙されたのも頷けます。そのあと、奏音くんのお母さんについて聞いたんですが、後ろめたいことでもあるのか、さっきまであれほど饒舌だったのに、急に黙り込んだんですよ」
「サツもそれを見てやっぱりなって顔をしていた」
「話しが全然分からないんだけど」
「奏音の母親はいまから7年前に神隠しにあったように忽然といなくなった。生後半年の乳飲み子を残し、母親がいなくなるなど普通はあり得ないだろう」
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