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番外編 悠仁さんが犯した罪の重さ
「悠仁さんに付いた弁護士がなかなかのやり手みたいですよ。脅されたら仕方なく親権を放棄することに合意した。奏音を返せ、誘拐罪で訴える。まぁ、そんな感じです」
地竜さんを送っていった彼がなかなか戻ってこなくて。心配で何度か廊下を覗いていたら、橘さんと目が合った。
「こんなこともあるかと思い、連休に入る前に、根岸さんに親権変更の手続きを家庭裁判所にしてもらったんです。通常審査に時間がかかるんですが、悠仁さんが奏音くんにじぃじのところに行けと置き去りにして行方不明になったこと、普段から育児放棄をしていたことや、小学校にもろくに通わせていなかったことから、奏音くんの将来を最優先に考え、親権の変更を認めるとの連絡が家庭裁判所からありました。悠仁さんは、罪状に保護責任者遺棄罪も追加されているはずですよ。今頃、真っ青になっているはずです」
「相変わらずおっかねぇな」
彼が戻ってきた。
「まさに目には目を歯には歯をだな」
「何か言いましたか?
「いや、別に」
「私はただ奏音くんの笑った顔が見たいだけですよ」
橘さんから17マスの漢字のノートを渡された。
「奏音くんはいつもカレンダーを見ているんです。理由を聞くと、字は書けないけど、○✕は書ける。学校に行きたくても行けないから漢字のノートは真っ白。それならとカレンダーの数字をノートに書き写して、日記を書く代わりに○✕を書くようになったんです」
ノートを開くと去年の4月からはじまっていた。
「月に4つか6つある○は学校に行けた日。月の半分以上ある✕はお父さんがいなかった日。週末に集中している●はお父さんが女の人とホテルに行った日。ひどいときは火曜日まで●。つまり車の中に置き去りにされて、お腹を空かせながらお父さんの帰りをずっと待っていたそうです。月の8割に書いている◎はお父さんに怒られた日。中が黒く塗られた日は叩かれた日。家庭裁判所に証拠として提出しました」
あまりにもむごい現実に言葉を失った。
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