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番外編 埋もれ木

「柚原ちょうどいいところに戻ってきた。帰ってきて早々悪いが事務所に行ってくれないか」 「柚がまた騒動を起こしたか。たくしょうがねぇな」 「柚は旦那と鳥飼の仲を、フーは鳥飼と柚の仲をそれぞれ邪推して、お互いに焼きもちを妬いて取っ組み合いの喧嘩をはじめやがった。鞠家だけでは押さえ切れない」 彼の腕のなかで幸ちゃんが怯えるように泣きじゃくっていた。 「子どもの前で喧嘩するなってあれほど言ってるのに困ったもんだな」 「遥琉さん、柚さんはカタギじゃ……」 「五年前といっても短い期間だが、縣一家の姐だった。負けず嫌いで勝気、気の強さは今も健在だ。男社会で生き抜くためには強くなるしかなかった。可哀想な女性《ひと》なんだ。ご、誤解するなよ未知。柚の肩を持つわけじゃないぞ。柚が未知に言ったことは決して許されることじゃないからな」 彼の額から冷や汗がふきだした。 「大丈夫分かってるから。でもなんでフーさんは鳥飼さんと柚さんの仲を疑ったりしたの?」 「それはな……ん?」 彼が何かに気付いた。幸ちゃんのお尻に手をやると、 「柚原、事務所に行くとき橘に、ハルちゃんの下着とスカートを持ってくるように頼んでくれ。あと、タオルは……」 キョロキョロと辺りを見回した。 「オヤジ」 僕が動く前に柚原さんが押入れから見付けてくれた。 「恥ずかしいことじゃないからもう泣くな」 ギャン泣きする幸ちゃんにさすがの彼もおろおろしていた。

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