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番外編 埋もれ木

「半年前だ。一央のところに九鬼総業の元幹部を名乗る男から電話が来るようになったのは。家族が寝静まったころを見計りこっそりと出掛けるようになった。柚が一央を問い詰めたら、やましいことはしていないと逆ギレして柚に手を上げようとした」 「もしかして柚さんは、その元幹部が鳥飼さんだと思い込んだの?」 「そうみたいだ。お、一太と奏音くんとハルちゃんを迎えに行く時間だ。続きはあとで話すから待ってろ」 彼が急いで出掛けていた。 陽葵を抱っこし、ままたんが腕によりをかけて作ってくれたおやつを美味しそうに頬張る子供たちを眺めていたら、めぐみちゃんと優輝くんがやって来た。 「二人に頼まれた度会さんが事務所に連れてきてくれたんだ」 あれから柚さんは顔を見せていない。どんなに待ってもママが迎えに来てくれなくて。寂しそうにしていた幸ちゃん。暗い表情ががぱぁ~~と一瞬で明るくなった。 「みゆちゃん、お姉ちゃんとお兄ちゃんとお家にかえろう」 「ママは?」 「おでかけしてるけど、大丈夫。おりこうさんにして待ってればすぐかえってくるよ」 「うん」 駆け付けた柚原さんと信孝さんが喧嘩の仲裁に入ってくれてなんとか場を収めた。でも柚さんは納得していなかった。そのまま事務所を飛び出しどこかに行ってしまった。信孝さんと蜂谷さんそれに若い衆で必死に探しているけどまだ見付からない。 梶山組にとって柚さんはそれこそ格好の獲物。何事もなければいいけど。 幸の前では不安な顔、心配な顔はすんなよ。なるべく明るく振る舞えって彼に言われた。頭では分かっているけど……心配で落ち着かなかった。

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