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番外編 埋もれ木

「どうしました?」 「龍成さんに似た人がいたような気がしたんだけど、他人の空似だったかも」 「もしかしたら龍成さん本人かも知れませんよ。龍一家と縣一家の関係者が何人もいます。未知さんひまちゃんをお願いしてもいいですか?」 「はい」 陽葵を手渡され抱っこすると、橘さんが慌てて台所に戻った。 瞳をうるうるさせながら、今にも泣き出しそうな表情で待っていたのは奏音くんだった。 あ、そうだ。今日はお弁当の日だったんだ。 「奏音くんの分もちゃんとありますよ」 「ほんと?」 爪先立ちになりテーブルの上を眺める奏音くん。 「あった、かなたのおべんとう。よかったあって。ずっーーと、ずっーーとね、たのしみだったんだ」 保育園の遠足でお父さんに作ってもらったおにぎりがしょっぱくて、水筒のお茶を飲んだら味が変わっていて、食べたものをもどしたことがあるみたい。 俺のメシが食えないのか?恥をかかせやがって。家に付くなりお腹を足蹴リされ、顔を平手打ちされた。それ以降食事もほとんど与えられず、保育園で食べるお昼ご飯で命を繋いでいたみたいだった。 「ままたん、おべんとうのなか見せて」 橘さんがお弁当箱の蓋を開けると、 「わぁ~~おいしそう!」 黄色い歓声を上げ、ぱちぱちと両手を叩いていた。嬉しくてしょうがないみたいだった。 「光希さんママもお料理が得意なんですよ」 「ほんと?」 「えぇ」 「やったーー!おべんとう作ってもらえる」 ぴょんぴょんと小躍りし大喜びしていた。

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