1582 / 4007
番外編 埋もれ木
「突っ立っていないで座れ」
紗智さんと那和さんに付き添われ、おどおどしながらも彼の隣に腰を下ろした。
「亜優はね、甘えん坊で恥ずかしがり屋なの。日本語がまだ話せないから、自分の想いを上手く伝えることが出来ない」
「だから手っ取り早く、わざと怒られるような悪戯をする。悪気がある訳じゃない」
「亜優を丸ごと、過去も引っくるめて全部、温かく包み込んでくれる人と一緒になって、幸せになってもらいたい。愛する人と出会い、幸せになるために自分は産まれてきたんだ。玲士さんだっけ?亜優にそのことを教えられる?」
紗智さんが真っ直ぐ前を見据え、静かに玲士さんと向き合った。
しばし亜優さんに見惚れていた玲士さん。見られていることに気付くと、びくっと肩を震わせ、慌てて姿勢をただした。
「オヤジや姐さんや根岸さんにしつこく何度も聞いて、ようやく聞けた亜優の話しと、ゴールディンウィークにここにきたときの亜優の一挙一動、すべてメモしたんです」
玲士さんが嬉しそうににこっと微笑むと、スーツの内ポケットから手のひらサイズのメモ帳を2冊、ズボンの後ろポケットから1冊取り出し、紗智さんに手渡した。
「あと、もう1冊あります。車の中にあるので今、持ってきます」
立ち上がろうとした玲士さんを彼が止めた。
ともだちにシェアしよう!

