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番外編 埋もれ木

「突っ立っていないで座れ」 紗智さんと那和さんに付き添われ、おどおどしながらも彼の隣に腰を下ろした。 「亜優はね、甘えん坊で恥ずかしがり屋なの。日本語がまだ話せないから、自分の想いを上手く伝えることが出来ない」 「だから手っ取り早く、わざと怒られるような悪戯をする。悪気がある訳じゃない」 「亜優を丸ごと、過去も引っくるめて全部、温かく包み込んでくれる人と一緒になって、幸せになってもらいたい。愛する人と出会い、幸せになるために自分は産まれてきたんだ。玲士さんだっけ?亜優にそのことを教えられる?」 紗智さんが真っ直ぐ前を見据え、静かに玲士さんと向き合った。 しばし亜優さんに見惚れていた玲士さん。見られていることに気付くと、びくっと肩を震わせ、慌てて姿勢をただした。 「オヤジや姐さんや根岸さんにしつこく何度も聞いて、ようやく聞けた亜優の話しと、ゴールディンウィークにここにきたときの亜優の一挙一動、すべてメモしたんです」 玲士さんが嬉しそうににこっと微笑むと、スーツの内ポケットから手のひらサイズのメモ帳を2冊、ズボンの後ろポケットから1冊取り出し、紗智さんに手渡した。 「あと、もう1冊あります。車の中にあるので今、持ってきます」 立ち上がろうとした玲士さんを彼が止めた。

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