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番外編 埋もれ木

「どうした?」 「可愛いオムツ姿も、ハイハイもそのうち見られなくなるのかなって思うと寂しくて」 「子どもの成長は早い。みんなあっという間に大きくなるからな」 下に視線を向けると陽葵が僕の腕の中で健やかな寝息を立てていつの間にか眠っていた。 身動ぎもせず寝顔を見つめていたら、 「俺はずっと、永遠に子どものままがいいな。その方が未知に甘えられるし」 彼の声が間近で聞こえてきて。 頤をスイと掬い上げられ、彼の唇が静かに重なってきた。 「夜も遅い。迷惑になるから明日にしよう」 信孝さんの声が聞こえてきたかと思ったらバタンとドアが開いた。 「今何時だと思ってるんだ。ドアの開け閉めくらい静かにしろ。子どもたちが目を覚ますじゃねぇか」 「幸を返して」 「返すも何も、迎えに来なかったのはどこの誰だ。幸、健気にも泣かずにずっと母親が迎えに来てくれるのを寝ずに待っていたんだぞ。上澤先生の診療所からふらっとまたいなくなったお前を鞠家や蜂谷、それにめぐみや優輝がどんな想いで探したか。それを分かっているのか?」 「アハハ。だから、何よ。助けてって、一言も頼んでないし」 柚さんの体からはお酒の匂いがぷんぷんと漂っていた。普段の柚さんとはまるで別人の姿に呆気にとられていると、千鳥足でふらふらと寝ている子どもたちの枕元に向かってきた。 「止まって柚さん。陽葵と太惺と心望が寝てるんだよ」 上ばかりみて足元は一切見ようとしない柚さん。最悪の事態が脳裏を過り、とっさに体が動いた。 「柚、止まれって言うのが聞こえねぇのか」 彼が怒鳴り声を張り上げ、 「柚、いい加減にしろ!」 信孝さんが慌てて柚さんの手首を掴むと自分の方に引き戻し、右手を振りかざした。

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