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番外編 埋もれ木

「がみがみ怒っても糠に釘ですからね。怒るだけ無駄です」 橘さんは怖いくらい落ち着いていた。 「あ、そうだ一央さん。あなた、柚さんに俺の子か?そう聞いたそうですね。やっと授かることが出来た新しい命を失い、自責の念にかられ、悲しみのどん底にいた彼女に掛けるべき言葉ではありませんよ。彼女がどれほど深く傷付いたか、あなたに分かりますか?それに、私の娘と柚さんを比べるなど言語道断です。ひとそれぞれ、みんな違うんですよ。モノハラってご存知ですか?離婚を切り出されても当然ですよ」 険しい目付き、強張った表情で一央さんをなじる橘さん。 一央さんは反論すら出来ず黙り込んでしまった。 「血の繋がらない三人の子どもたちを自分の子として分け隔てなく可愛がり、育てて来た。それは立派なことです。でも柚さんには?いままでどう接してきましたか?柚さんが昨日、酔っ払って言ってましたよ。あなたはまだ元カレに未練がある。元カレからプレゼントされたものをいまだ肌身離さず持ち歩いていると」 一央さんが、じゃあお前はどうなんだ。小さい声でぶつぶつと言い返した。 「私ですか?菱沼組本部長・柚原の妻として、未知さんの親として、組の顧問弁護士として毎日が充実してますよ。大勢の子どもたちに囲まれてとても幸せです」 柔らかな物腰で返すと、にっこりと微笑んだ。

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