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番外編 決して結ばれない恋だと知りながらも、それでも一途に彼を愛した

『俺を頼り実家に戻ってきたとする。目の前で旦那と兄貴が親しげに話す姿なんて見たくないはずだ。別れて5年過ぎても一央はまだ兄貴に未練タラタラだ。だから、姉は子どもたちを連れて福島に行ったんだ。兄夫婦に迷惑を掛けないよう柚なりに気を遣って卯月の兄貴に匿ってくれるよう頼み込んだんだよ。未知に辛く当たっているが、本当は仲良くなりたいんだよ。何かきっかけさえあればナオみたくママ友にもなれると俺は思う』 『実を言うと、一度ならず二度、包丁をふたりに向けたことがある。遼は義理の弟として一央と接しているけど、一央はそうじゃない。遼も龍もいるのにズルい、卑怯だ。何度言われたか』 光希さんがテーブルを指でとんとんと叩き愚痴をこぼした。 『光希、怒るな。可愛い顔が台無しだ』 龍成さんがその指を掬いあげると、チュッと軽く手の甲に口付けをした。 『龍、みんな見てるんだ。場所をわきまえろ』 『子どもなんで分かりません』 『え?』 龍成さんががばっと光希さんに抱きつき、あちこちキスをはじめた。 「なにをしているんだか」 橘さんたちがやれやれとため息をつき、目のやり場に困り果てていた。ちょうどそのとき、 「ママ、ただいま!」 雨垂れの音に負けないくらい元気な声が家中に響いた。 「ハルちゃんママ、ただいま」 そぉーと静かにドアが開いて、大きなくまのぬいぐみるみを両手で抱っこした幸ちゃんが入ってきた。幸ちゃん、ナイスタイミング。いいところに帰ってきてくれた。

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