1607 / 4008
番外編 決して結ばれない恋だと知りながらも、それでも一途に愛した
「未知から元気をもらったことだし、もう一仕事してくるか」
ひとつ背伸びをして肩を軽く回したあと颯爽と上着を羽織った。
「土曜日なのにお仕事なの?」
「ショッピングセンターに出掛けているときに根岸から連絡をもらったんだよ。菱沼金融の顧客リストに不正にアクセスしようとしている不埒な輩がいるってな。あ、そうだ。そのくまのぬいぐるみ、生まれてはじめてクレーンゲームにチャレンジした亜優が一発でゲットしたんだ。ひまちゃんにプレゼント出来るってそりゃあ、大喜びしていたんだ。だから、あとで亜優をうんと褒めてやってくれ」
「うん、分かった」
「亜優のヤツ、クレーンゲームで遊ぶ才能があるかも知れないぞ。そのあとも連続で色んなのをゲットしまくっていたんだ」
「たまにはゲームセンターに遊びに行くのもいいかも知れないね」
「そうだな。高校生や学生が青春を謳歌していたとき、亜優は病院や薄暗い地下牢みたいところに閉じ込められ、学校にも行かせてもらえなかったんだ。次はカラオケやボーリングにでも連れていこう。アスレチックもいいかもな。それじゃあ行ってくる。未知、留守番頼むな。我が儘に付き合ってくれてありがとう」
おでこと頬っぺにチュッと軽く口付けをして、大きな手で髪をくしゃくしゃと撫でてくれた。
「行ってらっしゃい」笑顔で手を振ると、「おぅ」嬉しそうに目を細め、慌ただしく出掛けていった。
ともだちにシェアしよう!

