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番外編 決して結ばれない恋だと知りながらも、それでも彼を一途に愛した

「未知さんにこれを預かってもらいたいの」 柚さんが肩に掛けていたバックから白い封筒を取り出すと手に握らせてくれた。 「あの、これは?」 「今日、一央から兄のもとに速達で届いたの。離婚届よ。あとは私の名前を書くだけになってる」 「離婚届って……」 言葉を失った。 「彼は私とやり直す気はないみたいね。遼成と盃を交わし直し、部屋住みでもカバン持ちでもなんでもいいから縣一家に戻りたいと、遼成に頼み込んだみたいよ」 柚さんは表情ひとつ変えずさばさばとしていた。 「光希に刃物は危ないから持ち出し禁止って言わなきゃ」 「七海からも頼んでもらう」 那和さんが紗智さんの手を掴むと、七海さんを探しに向かった。 ウーさんと亜優さんも軽く頭を下げると、それぞれの持ち場に戻っていった。 入れ違いに彼と信孝さんが入ってきた。 「一央は子供たちの親権をなにがなんでも柚に渡す気はないらしい」 「だから橘に、柚の代理人を頼んだんた」 すやすやとねんねする幸ちゃんの愛らしい寝顔を信孝さんが腰を屈め、目を細めて覗き込んだ。

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