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番外編かなたのおうちは
さっきから何を話しているのかな?奏音くんは楽しそうにずっと笑っている。
「光希さん、一央さんの入院先をご存知でしたよ」
橘さんの言葉に彼の顔から血の気が引いた。
「縣一家の姐さんを甘く見てはいけません」
遼成さんの説明では、寝ていた一央さんの前に突然現れると、顔の脇に出刃包丁を突き立てて、もう二度と二人きりで遼成さんに会うなと脅したみたいだった。
「一央は?」
「鬼気迫る光希さんの表情に、勝ち目はないと判断したのでしょう。今後一切二人きりで遼成さんに会わない、柚にちゃんと謝り今後のことを話し合うと誓約書を書いて、署名拇印を押したそうです。ですから、一央さんは後ろを向いて遼成さんの顔を一切見なかったそうです」
「光希は奏音と柚と会うためにこっちに向かってるかも知れないな。弾よけも付けずに、もしそれで楮山組の若いのに見付かったらそれこそ大変だ」
いつものように上着の内ポケットに手を入れ、そこでようやく思い出した。
「そうだった。奏音に貸したんだった。すっかり忘れていた」
龍成さんと楽しそうに会話する奏音くんにちらっと目を遣ると、
「橘、忙しいところ悪いがあとで俺のスマホを組事務所に届けてくれないか?あんなに楽しそうに笑う奏音、久し振りで見たからさ。返してくれってさすがに言えないだろう」
「あら、今日は随分と優しいんですね」
「うるさいな」
顔を真っ赤にするとぷいっと顔を逸らし、組事務所に急いで向かった。
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