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番外編 かなたのおうちは

「柚さん、朝からイライラしていたみたいですよ。幸ちゃんにどんなに駄々をこねられても手を挙げることはなかったのに、よほど虫の居所が悪かったのでしょう、五月蝿いと怒鳴り散らし頬っぺを平手打ちしたみたいです。紫さんが幸ちゃんの泣き声に気付き様子を見に行ったら、ママごめんなさいと謝りながら泣き続ける幸ちゃんを一切見向きもせず、誰かと楽しそうに電話をしていたそうです」 「だから信孝さんが呼ばれたんだ」 「酒の匂いがしたそうですよ」 「めぐみちゃんと優輝くんは?」 「度会さんと紫さんが側にいるので大丈夫です」 「それなら良かった」 美味しい!を連呼してラーメンを啜る幸ちゃん。よほどお腹が空いていたのだろう。あっという間に平らげると、台所に立つ紗智さんと那和さんのところに行き、おかわりくださいと大きな声で頼んでいた。 「火の無い所に煙は立たぬ。一央にも柚にも非がある。どっちもどっちだよ」 光希さんの声が後ろから聞こえてきて、びっくりして振り返ると、 「光希さんなんでそんな物騒なものを持ってるの」 果物ナイフを手にしていたから慌てた。 「俺が幸を刺すとでも思った?奏音にオレンジを剥いてあげようかなって思っただけだよ。子どもは刺さないから安心して」 光希さんがふふふと不適な笑みを浮かべた。 その直後、冷水を浴びせられたように背がゾクゾクと寒くなった。

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