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番外編 世間を欺く仮の姿

「いいか奏音、光希ママの言うことをちゃんと聞いて、鞠家とハチ、玲士から決して離れるなよ」 「はい」 「パパ、夜には合流する。それまで奏音が玲士と一緒にママを守るんだ。いいな」 「はい」 胡座をかいた龍成さんの前に正座し背筋をぴんと伸ばす奏音くん。大きな声で返事をした。 根岸さんと伊澤さんも奏音くんについていくことになった。遠くから見守ることにしたみたいだった。 昨夜も悪い夢を見たのか夜中に何度も目を覚まし、光希さんの服にしがみつき、クズって泣いていた奏音くん。 「光希とイチャイチャしようと思うと決まって奏音が目を覚ますんだ。鬼の居ぬ間に、光希を独り占め出来る。思う存分甘える予定だったんだが……」龍成さんががっくりと肩を落としていた。 「今夜こそはリベンジを掛け、気合いを入れて奏音をさっさと寝かし付け、光希の寝込みを襲う予定だ。だから、オマエら邪魔するなよ。邪魔したら半殺しな」玲士さんら舎弟に睨みを効かせていたみたい。なにもそこまでもしなくても。東京に帰ったら幾らでもイチャイチャ出来るだろうが。彼やお祖父ちゃんが呆れていた。 市内にある楮山組の二次団体を張り込んでいたヤスさんらが、何者かに狙撃されたと連絡が入ったのは、光希さんと奏音くんが出掛けてからわずか5分後のことだった。 「柚原、柚原はいるか?」 彼が名前を呼ぶと、 「たいくんとここちゃんのオムツを交換しているから、少し待ってくれ」 どこからか声が返ってきた。 「すっかり腑抜けて、みなには昼行灯と揶揄されているが、腕は全然落ちてないんだろう?」 お祖父ちゃんが彼に切り出した。 「実は猟銃免許を取得していると彼から聞いた時は驚きました」 「やはり世間の目を欺く仮の姿か」 お祖父ちゃんがなるほどなって納得していた。

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