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番外編 世間を欺く仮の姿
そこへ橘さんが戻ってきた。じろりと不機嫌そうに見られ、那和さんが慌てて椅子に座り直した。
「テーブルはご飯を食べるところ。行儀悪い。でしょう?ごめんなさい」
「分かればいいんですよ」
「遥琉、菱沼組の責任者に礼が言いたいと親子連れがエントランスにいると伊澤さんから連絡が入ってます。名前は生田目。柚さんが助けた女子中学生と父親みたいです。どうしますか?」
「今確か伊澤って、俺の聞き間違いか?」
「俺がいたんでは邪魔だし、足手まといになると留守番と警備を引き受けてくれたんです」
「じぃじと孫水入らずのひとときに、水を差したくないんだろう。伊澤らしいな」
「そうですね」
「橘、伊澤はそれ以外に何か言ってきたか?」
「女子中学生は誰とも目を合わせようとせず、父親が何度注意してもずっと下を向きスマホを弄ってるみたいです。父親の方は50歳くらい。注意する以外、娘とは会話という会話もなく、妙によそよそしいと。それともうひとつ。タイミングが良すぎるとも言ってました。磐梯熱海に主要ポストの幹部が出払っているのをまるで知っているかのようだと」
「主要ポストの幹部は実はもう一人いることを連中は知らないんだろうな」
「もれなくフーさんが付いていきますよ」
「ふたりは一心同体だ。危ないと止めてもフーは勝手に付いていく。橘、鳥飼とフーに防弾チョッキと護身用のナイフを持たせろ」
「分かりました」
橘さんが急いで組事務所に向かった。
鳥飼さんは事務方の雑務を一手に引き受けてくれる。まさに縁の下の力持ちだ。
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