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番外編 テウという男

―先日は妻が未知さんに大変お世話になり……- 「堅苦しい挨拶は抜きだ。普段通りの喋り方でいいぞ」 いつもとまるっきり違う鷲崎さんに紗智さんと那和さんが込み上げてくる笑いを必死で堪えていた。 「一つ頼みがあるんだが。なぁに野暮用だ。すぐ終わる。声が聞こえていると思うが、太惺と喋ってくれないか?」 ーはい。喜んでー 鷲崎さんの声が一層弾んだ。 ー覚さん、今、たいくんって聞こえたんだけど……ー 七海さんの声も聞こえてきた。 ーななちゃんだよ。たいくん、覚えてる?ー ーおぃ、七海。たいくんは俺と喋りたいんだー ーななちゃんとだよね?ー 「相変わらずおじいちゃんとななちゃんは仲がいいな」 「あー、うー」 太惺も鷲崎さんと七海さんの声に反応し、手足バタつかせた。 ーたいくん、おじいちゃんの声だって分かったのか?そうか、偉いな。おじいちゃん嬉しいよー 受話器から涙混じりの声が返ってきた。 「本当に泣くヤツがいるか。鷲崎の親バカ振りは、遥琉の上を行くかもな」 これにはお祖父ちゃんも呆れて、苦笑いしていた。 和気藹々とした賑やかなひとときも、彼に掛かってきた一本の電話で一変した。 メインスタジオ側の観客席とゴール裏の観客席を挟み狙撃犯と対峙した柚原さん。黒竜が放った刺客はなんら躊躇することなく、薄笑いを浮かべながら光希さんと奏音が座っている観客席に向かって発砲した。

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