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番外編もやもや
「携帯落ちてたよ。たいくんとここちゃんに見付かったらおもちゃにされて、よだれでべたべたにされるよ。ここに置いとくね」
オムツや子どもたちの衣類などをしまっているキッズチェストの天板に置いてくれた。
「ありがとう紗智さん」
「バーバ茨木さんに注意されていた」
「だってマーのこと泣かせたんだよ」
「ごめんね、心配を掛けて。もう大丈夫だから」
なるべく明るく振る舞った。
「そうやってすぐ無理する」
「無理は駄目だよ」
「橘さんって意外と恥ずかしがり屋だったんだね。驚いた」
「典型的なツンデレだって、バーバが」
地竜さんが寄越してくれた動画は、狙撃手と対峙する柚原さんを撮影したものだった。地竜さんの支援者がたまたま、偶然にも現場に居合わせたみたいだった。
痺れるくらいクレイジーなナイスガイ。観客を凶弾から守った生粋のヤマトボーイ。動画を撮影している男性が片言の日本語で柚原さんのことを称賛していた。
「橘さん、遥琉さんやお祖父ちゃんにこれを見られるの恥ずかしかったんだね」
「普段とは全然違うもの」
紗智さんの言葉に那和さんが大きく二回頷いた。
こんこん。遠慮がちにノックの音がした。
「未知、いいか?」
少し間を置いてから彼の声が聞こえてきた。
「駄目だよ」
「まだ駄目」
紗智さんと那和さんがしーと悪戯っぽい笑みを浮かべ、唇の前に人差し指を立てた。
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