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番外編 弓削さんが帰ってくるのを子供たちも待ってたんだよ

双眼鏡で向かい側のビルを見つめる弓削さんとウーさん。まるで足を縫いとめられたように全く動かなかった。 「楮山組は一枚岩じゃない」 柚原さんがそんなふたりに声を掛けた。 「弓削、なんで気付かない」 「何をだ」 「足元を見ろ。あと、姐さんの腕のなか」 柚原さんに言われてはじめて太惺と心望が足にしがみつき立っちしていることにようやく気付いた。 「たいくん、ここちゃん……俺のことてっきり忘れていると思ったから……ふたりとも大きくなったな。姐さん、良かった。無事に陽葵ちゃんが産まれて……」 口元を片方の手で押さえると感極まり涙ぐんだ。 太惺と心望が我先にと小さなお手手を懸命に伸ばし抱っこをせがんだ。 「柚原、悪いがふたりを居間に連れていってくれないか?窓側は危ない。それに落としたら大変だから」 震える黒い手をもう一方の手でそっと隠す弓削さん。 「分かった」 柚原さんもウーさんもそのことに気付いたけど、あえて気付かないふりをした。 「そうか。歩けるようになったんだ」 弓削さんの後ろに柚原さんが立ちふたりの名前を呼ぶと、手でバランスを取りながら、ふらつきながらもしっかりとした足取りで弓削さんに向かって歩いていった。 五歩、六歩、七歩……。 八歩、九歩……。 良く頑張ったな。偉いぞふたりとも 両手を広げる弓削さんの腕のなかにキャキャと笑いながら倒れ込んでいった。

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