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番外編 ゆけさん、あそぼ
「俺じゃない。秦さんからのプレゼントだ。有り難くもらっておけ」
「有り難くって、これって」
「可愛い」
若い女性に人気があるくまのキャラクターの箱に紗智さんが歓声を上げた。
「紗智、これはコンドー……」
「コンドー?……何?」
「何度も使っただろう」
妙に噛み合わないふたりの会話に弓削さんがクスクスと声を立てて笑いだした。
「相変わらず仲がいいな。お前らのやり取りを見てるとほっとする。自分の家に帰ってきた、姐さんとオヤジのもとにようやく帰って来れたんだって実感が沸いて来るよ。子どもたちはみんなからすの行水だ。早く行け。呼び止めて悪かった」
「ほらふたりとも急いで」
弓削さんと一緒にふたりを笑顔で送り出した。
弓削さんが帰ってきて一番喜んでいるのはヤスさんら弟分の舎弟たちだ。
ー兄貴、準備万端で待っているんですから早く来てくださいよーさっきから催促の電話が鳴りっぱなしだ。いつ退院出来るか分からないからと、入院する前にスマホを解約したみたいで、電話は柚原さんのスマホに掛かってきていた。
「皆さんお待ちかねですよ」
見かねた橘さんが声を掛けた。
「分かってる。分かってはいるんだが、体が……姐さんのそばを離れたくないって言ってるんだ」
黒革の手袋を静かに見つめた。
「もう使いものにならない体になってしまったんだ。ヤスたちに顔向けが出来ない」
「そう思っているのはお前だけだ。ヤスたちは、お前が戻ってくるのずっと待っていた」
「嘘だ」
「嘘ついてどうする」
柚原さんにお風呂に入れてもらった陽葵を彼がタオルに包み連れてきてくれた。
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