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番外編 九鬼テウという男

九鬼テウと九鬼テウの娘に関する情報が少ない。鳥飼さんに捜査協力を仰ぐため捜査員が組事務所を訪ねてきたのは夜7時過ぎのことだった。 「随分と仕事熱心だこと。ついこの間まで菱沼組が悪の権現だとあぁでもねぇ、こうでもねぇって言ってなかったか?現金な連中だ。ハチもそう思うだろう」 「はい」 「は?」 伊澤さんに嫌味を言われた若い捜査員たちは気色を悪くして今にも飛び掛かりそうになった。でも50才手前のベテランの捜査員は顔色一つ変えず、 「そうかっかするな。お前らが束になっても太刀打ち出来る人じゃない」 若い捜査員たちを止め、やんわりとたしなめた。 「先々代には世話になった。命の恩人と言っても過言でない。先々代の姐さんの行方が知りたい。健在なら息子が結婚し幸せに暮らしていることを伝えて欲しい。もし亡くなっているのなら、亡くなった原因、埋葬先を調べてもらいたい。それが条件だ」 鳥飼さんは、渡辺と名乗った50才手前の捜査員に静かにそう返した。 「分かった。条件を飲む。部下にすぐに調べさせる。先々代の姐さんの名前は?」 「九鬼千夏。生きていれば52才だ。猫好きだが、犬アレルギーだ。右耳のしたに五百玉くらいの丸い痣がある」 鳥飼さんの証言をもとに若い捜査員が似顔絵を作成しはじめた。 「鳥飼ちょっと待て」 渡辺さんが声を上げた。 「先々代と親子ほど年が離れてないか?先々代がもし生きていれば80才に近いはずだ」 「親の借金のカタに先々代に売り飛ばされたんだ。昔からよくある話しだ。跡取りとなる睦を産んだから愛人から後妻に出世しただけだ」 「なるほどな」 鳥飼さんは淡々と説明した。 渡辺さんは鳥飼さんの話しに耳を傾けながら、背後にぬりかべのように無表情で立っているフーさんが気になって仕方がないみたいだった。

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