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番外編 嵐の前の静けさ

いつみは楮山を道連れに死ぬつもりだ。連絡を受け現場に駆け付けた甲崎さんらは為す術もなく消火活動をただ見守るしか出来なかった。 陽葵を寝かし付け、太惺と心望を彼にお願いしてナオさんの様子を見に行こうと組事務所の前を通り掛かったら、 「姐さん」 鳥飼さんに声を掛けられた。 「少しだけ……五分でいいです。話し、聞いてもらってもいいですか?」 切羽詰まった表情で頼まれれば、無下にも断ることも出来なくて。こくりと頷いた。 「いつみの話しを聞いて、俺、怒りで腸が煮えくり返りました。テウといつみはぐるだった。先々代に溺愛され育ったいつみは、父親の愛情が千夏と睦に移ってしまったことをずっと根に持っていた。殺したいほど恨んでいた。だから、カルト集団の幹部だったテウに千夏と睦を売り飛ばした。テウは青蛇のある幹部が黒髪が美しい日本人の愛人《ペット》を欲しがっている。拐ってこいと教祖から命じられ密入国した。誤算だったのは、テウが本気で千夏をあいしてしまったことと、千夏が妊娠してしまったことと、睦を俺のところに置いていったことだった。いつみの身勝手な理由で睦は母親を、千夏は子どもを奪われたことになる。睦も千夏も気の毒で……俺、悔しいです」 鳥飼さんが涙を堪えた。

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