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番外編 真実は悲しいものだった
「僕も那奈お姉さんを傷付けてしまった。やってはいけない一番卑劣な方法で……」
腕を擦り、両手を揉み合わせた。
「それはちいと違うぞ」
秦さんが突然姿を現したから四人して腰を抜かすくらい驚いた。
「ちゃんと戸締まりしないと。ほら、鍵。刺さったままだったぞ」
「秦さん怪力。すごい、なにやっても鍵が抜けなかったのに……鳥飼さんでもダメだったんだよ」
紗智さんが驚きの声を上げた。
「抜いたのは俺じゃない。青空だ」
秦さんがキョロキョロと部屋のなかを見回した。
「いや~噂には聞いていたけど、ここまでピンク一色だったとは……」
開いた口が塞がらないみたいだった。
温泉好きの秦さんにとって福島はまさに天国だ。福島県は全国四位の温泉地数を誇る、知るひとぞ知る温泉王国だ。東京に帰らず、青空さんとお祖父ちゃんと三人で県内の温泉巡りをしている。
「那奈は未知に感謝していた。前に一歩踏み出す勇気と変わるチャンスを与えてくれたってね。那奈はいつみと性格が似ている。今はだいぶ丸くなったがな。昔、遥琉と結婚式を挙げたその日の夜、好きな人がいる。好きでもないあなたをこれから好きになる可能性はおそらくゼロ。だから一緒に暮らす気はない。子どもは大嫌い。だからいらない。そうキッパリ言い切った。遥琉の男としてのプライドを那奈はズタズタに傷付けたんだ。遥琉は顔は怖いが心は繊細なんだ。家庭の温もりを知らずに育ったから政略結婚とはいえ那奈を一生かけて愛し抜くと決心し式を挙げたのになやりきれなかったと思うよ。カタチだけの夫婦でもいい、話し合おうと何度も言ったがプライドの高い那奈は一切耳を貸さなかった」
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