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番外編 九鬼の女

「姐さん遅くなってすみません」 レジ袋を下げた丸刈りの男が息を切らしながら姿を現した。 「近くにコンビニがなくて……」 頭をかきながらぺこぺこと頭を下げた。 「どれだけ待たせるの。言い訳しないの」 いつみさんは怒鳴り散らすと、ちらっとレジ袋のなかを覗いた。 「頼んだモノと違うじゃない。どいつもこいつも使えないクズばっかり。威勢がいいのは口だけ。もういい、あっちへいって」 レジ袋を男性に投げると、不機嫌な皺を眉間に作った。 「とんだ勘違い姐さんだな。エライのは亭主であって自分ではない。それが分かってない」 彼が足元に転がってきた缶ビールを拾い上げ、いつみさんの前に置いた。 「私がいるから、能無しのボンクラでも楮山は組を立ち上げることが出来たんじゃない」 開き直り持論を唱えたと思ったら、 「ねぇ、鳥飼。しばらく匿ってよ。お願い」 猫なで声を出した。 「ウー、使って悪いが楮山組の姐さんをつまみ出してくれ」 フーさんは奈梛ちゃんとお家でお留守番をしている。 「ちょっと何をするの!鳥飼、恩を仇で返すとはいい度胸ね」 彼から「いいぞ」とお許しが出たウーさん。 いつみさんの首根っこを片手でむんずと掴むと軽々と持ち上げた。 「お前は睦から母親を奪っただけじゃない。嫉妬に狂い千夏をイジメて、挙げ句にカルト集団に売り飛ばした。悪いことをしたら謝るのが筋だ。小学生でも分かることだ。情に訴え俺を懐柔しに来たつもりだろうが、残念だったな。俺には亭主がいる。新婚早々浮気をするつもりは一切ない」 きっぱりと答えると、いつみさんの前にどさっと紙の束を置いた。

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