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番外編九鬼の女

「渡辺って誰なのよ」 「県警のデカだ」 「は?私をサツに売る気なの?」 いつみさんは手足をバタつかせ、目尻を険しく吊り上げて怒り出した。 「タカ、ミツ、あんたらふたりしてなにぼぉーとしてんのよ。見てないでさっさと助けなさいよ」 怒りの矛先は丸刈りの男ともうひとりいる坊主頭の男へ向けられた。 ふたりとも何か言いたげな表情で、いつみさんをチラチラと見ていた。 「言いたいことがあるならはっきり言え。俺らは親分の若い衆だ。姐さんの子守役じゃねぇぞ、てな」 痺れを切らした彼がタカとミツという名前の男性に声を掛けた。 「俺ら、鳥飼さんに厄介になってヤクザを辞めて、カタギの仕事に就いたんです。でも、やってもいない痴漢の罪を着せられて、示談金を相手から要求されて、そんとき助けてくれたオヤジの恩に報いるためにヤクザに戻ったんです。福島に向かう車内で姐さんの話しを色々聞いているうち、俺らオヤジに騙されていたことに気付いたんです。鳥飼さん恩を仇で返してすんません」 腰を九の字に曲げ深々と頭を下げた。 「なんだ知り合いだったのか」 「ふたりとも昔俺の舎弟だった。タカは二人目の子どもが産まれる、ミツは妹に子どもが産まれる。妊娠したと相手の男に告げたとたんいなくなった。妹は18歳。ひとりで育てなきゃならない。だから、昼間の仕事に就いて妹を支えたい。そう言われて仕事を紹介したんだ。ヤクザに戻ったと聞いてなにか裏があるんじゃないか、そう思っていた」 「さすが、鳥飼だな」 「いえ、その、別に……」 彼に褒められたのがよほど嬉しかったみたいで頬を仄かに赤らめていた。

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