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番外編 九鬼の女

「どうした?」 「いつみは弁護士を呼ばなかった。変だと思わないか?」 「言われてみればそうだな」 楮山組の顧問弁護士は川合さんだ。楮山の姐と陰でひそやかに噂されている。 「いつみは楮山と川合の関係を快くは思っていなかったはずだ。五十代のいつみにたいして川合は三十歳前後。渡辺がいつみを【九鬼いつみ】と呼んでいたってことは、楮山とはまだ籍を入れていないんだろう」 「楮山は悪知恵には長ける男だが、九鬼総業の中ではほとんど無名だった。いつみも言っていた。自分がいたから能無しのボンクラでも組を立ち上げることが出来たって。意外とそれは当たってるのかも知れない。組の運営がある程度軌道に乗ればいつみはもう用済みだ。楮山だっていつみより若い川合のほうがいいに決まっている。性格はそっくりだが……」 「このタイミングでもし川合が楮山の子どもを妊娠したとしたらどうなる?」 「嫉妬に狂い子どもを堕胎させるだけで飽きたらず、間違いなく川合を殺すだろうな。それも最も残虐な方法で」 「こぇなー。橘もおっかねぇけど、橘よりいつみの方がおっかねぇぞ。もしかして、見付かった遺体は川合かもしれない」 彼がすぐに渡辺さんに電話を掛けた。川合さんの所在も大至急確認してくれと頼み込んだ。

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