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番外編 石山の組長襲名式

今日は石山の組長襲名式が行われる。 楮山組の事務所の前は構成員と警察が前日から道路を挟み睨み合いを続けていた。非日常的な、異様ともいえる光景に市民の間で不安が広がっている。 すぐ近くにある小学校、中学校は児童生徒の安全を第一に考え急遽、臨時休校にしたほどだ。 「たく、なんでまた平日の真っ昼間に襲名式を行うんだよ。仕事を休める親がいる子はいいが、親が仕事を休めずひとりで留守番をしなきゃいけない子どももいるだろう。人様の迷惑を考えろっていうんだ。それに、躾がなってない。はた迷惑連中だ」 彼が呆れるのも無理ない。 深夜に大音量を流したり、ほとんど下着姿の女性たちが狂ったように叫びながら髪を振り乱し裸足で外をうろうろしたり、酔っ払った女たちが道路で寝ていて危うく車に轢かれそうになったりとやりたい放題だ。 言葉が通じないことを考えると女性たちはみな東南アジア系ではないか、そんなことを話していた。 「川合と夢華の肩を持つ訳じゃないが、なんかふたりが不憫だな。利用するだけ利用していらなくなったらいとも簡単に命を奪うだからな。胎児がいても容赦なしだ」 胸をそぎ落とされ、もとの顔が分からなくなるまで殴られ、挙げ句に、バラバラにされ、灯油をかけられ火を付けられた。 残りの遺体は浴室の天井裏や台所の床下収納やごみ箱に捨てられてあった。 その後の警察の調べで川合さんも夢華さんも妊娠していたことが判明した。川合さんは妊娠したばかりだったけど、夢華さんは七か月に入ったところでお腹の赤ちゃんの性別は男の子。人のかたちをしていた。だから尚更夢華さんが不憫でならなかった。

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