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番外編 彼の弟分
「あんなにラブラブだったのに何があったんだ。俺でよければ話しを聞くってヤツに言ったら、仲のいい友人に恋人を奪われた。腹いせにその友人を殺して自分も死ぬって言って聞かなくて、大変だったんだ。だから、実行に移す前に騙されたと思って渋川に一度だけ会ってみないかってヤツを説得したんだ」
「そんなことがあったんだ。全然知らなかった。遥琉さんってやっぱりすごいね」
「そうか?当たり前のことをしたまでなんだが……未知に褒められるとなんか照れるな」
嬉しそうにニコッと微笑んでくれた。
「楮山も石山も悪さばかりしてないで、オヤジの爪の垢を煎じて飲んだ方がいい。少しはまともになるんじゃないのか」
根岸さんが亜優さんの頭をぽんぽんと撫でた。
「だいぶ落ち着いたか?」
亜優さんがこくりと頷いた。
「良かった。目の毒だがもう少しだけ付き合ってくれ。もし見たことがあるひとがいたら教えてくれ」
鞠家さんが通訳してくれる言葉に耳を傾ける亜優さん。今度は目を輝かせ大きく頷いた。
根岸さんのためなら。根岸さんの役に立てるなら。俺、頑張るから。
杯直しの順番にも重要な意味合いがあるみたいで、ひとりずつ顔を確認していた。
「いつみは頑として口を割らない。川合と夢華の遺体を見ても眉一つ動かなかった。たいした女だ」
何気に画面を見ると廊下に座る男がふと目に入った。右目を眼帯で覆う長髪のその男は末席に控える男をじっと見つめていた。
「遥琉さん、このひと!」
「バーバ!」
亜優さんも気付いたみたいだった。
「どうしたふたりとも」
「芫さんがふたりいる。このひと、芫さんだよ」
「芫だと、どの男だ」
彼が驚いたような声を上げた。
微動だにせずドアの前に直立していた弓削さんの体がぴくりと微かに動いた。
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