1932 / 3282
番外編 仕組まれた罠
「若いころは特別に手入れをしなくてもシワもなく潤いのあるすべすべの手だけど、30歳を過ぎるとそうもいかないのよ。それに赤ちゃんがいると自分のことはどうしても後回しになるからお肌がカサカサになってしまうのよね」
紫さんが食べきれないくらいたくさんのショートケーキとフルーツタルトのお土産を携えめぐみちゃんたちを連れて遊びに来てくれた。
髪を梳かし、ハンドクリームを塗り手を念入りにマッサージしてくれた。
「やっぱりあの手は藍子さんのですか?」
「川合さんと夢華さんの手だけがどういう訳かマンションからまだ見つかっていない、誰かがそんなことを話していたわ。ふたりの可能性も十分にあり得るわ」
奏音くんは彼と橘さんに付き添ってもらい組事務所にいる。光希さんとはテレビ電話で繋がっているから、ひとりじゃないから心強いはず。
「鳥飼も言ってたけど、九鬼総業には悪趣味な殿方が多くて困っちゃうわね。戦前の日本じゃああるまいし、女性をなんだと思ってるのかしら」
たとえ娘でも利用できるものは何でも利用する。いつみさんもまゆこさんも九鬼の家に生まれなかったら別の人生を歩んでいたはず。千夏さんも久坂さんも九鬼と関り合いを持たなければ今ごろ幸せに暮らしていたかも知れない。言い様のない憤りで紫さんの身体は震えていた。
ともだちにシェアしよう!